第4章 参考資料 1 ユニバーサルデザインの必要性
第4章
参考資料
1
ユニバーサルデザイ
ンの必要性
「ユニバーサルデザイン」がこれからの社会になぜ必要なのかということ
を理解していただくために,ユニバーサルデザインの定義,生まれた背景,
これまでの経緯などについて説明します。
(1)ユニバーサルデザインの定義
ユニバーサルデザイン 1
(Uni ver s al Des i gn)とは,万人(Uni ver s al )
のための設計(Des i gn)思想です。
社会には,性別,年齢,職業,身体能力,身体特徴,国籍,人種,趣味,
性格,知識,嗜好など,いろいろな特徴をもった人がいます。また,それ
ぞれの人人もけがや病気などによる身体的な変調や環境変化などの影響で
常に同じ状態を保っているわけではありません。
そうした多様な人人の要求を広く考慮し,多くの人が自立して安全,快
適,安心に暮らせる環境や建物,製品,サービス,情報などを計画・実行
することがユニバーサルデザインの思想です。
(2)ユニバーサルデザインのあゆみ
ユニバーサルデザイン誕生の背景には,さまざまな考え方や政策が関係
しています(表1)。
「ノーマライゼーションの理念」は,1950年代にデンマークで提唱され
ました。「障害者が障害のない者と同等に生活・活動する社会をめざす」と
いう考え方です。この理念により,「1959年法(デンマーク福祉法)」が制
定され,後に国際的に広がりました。
それとともに,この理念は,もとは障害者を対象にするものであったの
なりました。
一方,1960∼80年代のアメリカでは,障害のある人や高齢者が社会生活
に参加するうえで支障となる物理的な障壁を取り除いたり,情報通信機器
や情報サービスを誰もが共有できるアクセシビリティ 2
(Ac c es s i bi l i t y )
に関する法律が整備されました。そして,1990年には障害者に対する差別
を禁じるADA( Amer i c ans wi t h Di s abi l i t i es Ac t of 1990:障害をもつアメ
リカ人法) が施行されました。
しかし,差別を禁じる法律が施行されても障害のある人にとって快適で
便利な生活環境が保障されるまでにはいたりませんでした。法律に基づく
ガイドラインが最低基準として機能したことと,健常者と障害者を区別す
るような環境整備が行われたためです。最低基準さえ満たせばよいとする
計画者や設計者の意識が,障害者専用の出入り口や昇降機付きのバスとい
った区別を生み出したのです。
そこで,障害のある人や高齢者といった特定の人たちのためだけでなく,
より多くの人人を対象とするユニバーサルデザインの考えが提唱されるよ
うになりました。基本概念や7原則(表2)の策定で中心的な役割を果た
したのが,ノースカロライナ州立大学併設の研究機関,センター・フォー・
ユニバーサルデザイン(Cent er f or Uni ver s al Des i gn)のロナルド・メイ
ス(Ronal d L. Mac e)所長をはじめとする研究者たちです。メイスらは法規
制の必要を認めながらも市場の役割に大きく期待しました。市場淘汰こそ
が特殊な配慮や違和感のない優れたデザインを生み出すと考えたためです。
より多くの人人が利用,購入すればスケールメリットによる価格妥当性も
達成されます。
ユニバーサルデザインという考え方は,日本のものづくりやまちづくり
にも大きな影響をもたらしました。1990年代後半以降,地方自治体はユニ
バーサルデザインの考え方をもとにしたまちづくりに取り組み,その結果,
交通バリアフリー法 3
やハートビル法 4
といった法制度の整備も行われまし
た。現在,この二つを包括するユニバーサル社会創造法案(仮称)が審議
第4章 参考資料 1 ユニバーサルデザインの必要性
ザインに取り組んでいます。高齢社会に向けた市場が拡大する現在,ユニ
バーサルデザインは製品開発の不可欠な要素になったことが大きな理由で
す。
1 国立国語研究所では,ユニバーサルデザインの日本語への言い換え例として「万人向 け設計」を提案しています。
2 国立国語研究所では,アクセシビリティの日本語への言い換え例として「利用しやす さ」を提案しています。
3 高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(平 成12年法律第68号)
4 高齢者,身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(平 成6年法律第44号)
表1 ユニバーサルデザインの背景概念
名 称 概 要
バリアフリー (Bar r i er Fr ee)
障害者や高齢者の生活に不便な障害を取り除こう という考え方
アクセシビリティ (Ac c es s i bi l i t y)
情報やサービス,ソフトウェアなどが,受け入れ やすく,利用しやすいこと
ユーザービリティ (Us abi l i t y)
簡単な操作や使っていてストレスや戸惑いを感じ ない使いやすさのこと
表2 ロナルド・メイスによるユニバーサルデザインの7原則
1 公平な実用性 Equi t abl e Us e 多くの人人に使いやすく,市場 性をもつ
2 柔軟性 Fl exi bi l i t y i n Us e
幅 広 く 個 人 の 好 み や 能 力 に 対 応できる
3 簡単で直感的に使える Si mpl e and I nt ui t i ve Us e
経験,知識,言語能力,集中力 に関係なく使える
4 感覚でわかる情報 Per c ept i bl e I nf or mat i on
周 囲 の 状 況 や 利 用 者 の 知 覚 能
力にかかわらず,必要な情報を
効果的に提供する 5 エラーへの対応 Tol er anc e f or
Er r or
誤りや意図しない行動に対し, 事 故 や 有 害 な 結 果 を 最 小 限 に
抑え,事故や間違いで生じる危
険を最小限にする
6 少ない肉体的労力 Low Phys i c al Ef f or t 最 低 限 の 疲 労 で 効 果 的 か つ 快 適に使える
7 利用しやすい大きさと空 間
Si z e and Spac e f or Appr oac h and Us e
体格,姿勢に関係なく利用でき
る
2
使いやすさ
に配慮し
た「
も
の」
づく
り
の具体例
さまざまな人のために使いやすいように配慮されたたくさんの「もの」
が暮しの中にあります。また,筑波研究学園都市の研究教育機関などから,
開発・提案され,実用化に向けて着実に進んでいる「もの」もあります。
ここでは,ユニバーサルデザインに配慮した「もの」をつくるための具体
的な配慮ポイントとその代表事例を紹介します。
(1)配慮ポイント
①位置とレイアウト
スイッチやドアノブなどの操作部分,説明表示などは,使いやすくわか りやすい場所に配置
②照明の状態
ものや状態がわかりやすい適切な明るさ
③色とコントラスト
色が見分けにくい人やものが見えにくい人へも配慮した配色。文字や図 の見やすい背景との対比
④文字の大きさと形
表示文字や図の見やすくわかりやすい大きさと表示方法
⑤わかりやすいことば
ことばや音声案内の一般的でわかりやすいことばづかい
⑥図記号と絵記号
説明書や表示に,文字だけでなく図や絵を使う
⑦音声の音量と音程
音声案内は,大きさや音の高さを周囲の状況に合わせて調整できる
⑧情報表示の速さ
音声案内や画面の文字表示の適切な表示スピード
⑨識別のしやすさ
スイッチ類など操作部分を,見ても触っても区別しやすい形
⑩扱いやすさ
第4章 参考資料 2 使いやすさに配慮した「もの」づくりの具体例
⑪賞味期限・成分表示
食品やものの成分の明確な表示
⑫表面温度の警告
使うときに触れる部分の温度への注意
⑬表面の材質
すべりにくく持ちやすいドアノブ,歩きやすい床,危険な突起がない, などの表面材質
⑭安全な素材
アレルギーや毒性がなく,有害な化学物質を含まない素材。環境にやさ しい悪影響のない素材
⑮使い方がわかりやすい
ものの使い方の順序が簡単でわかりやすい
⑯安全機構
もし間違った使い方や失敗をしても,使う人に危険にならずに元どおり に回復できる
(2)代表例
①プリペイドカードの切り欠き
カードの一部にルール化した形の切
り欠きをつくり,三角は乗り物用,だ
円はテレホン用,四角は買い物用に3
種類が区別できます。これは見えにく
い人にも触ってわかります。
(画像提供:共用品推進機構)
②シャンプーとリンスの容器
シャンプーの容器には小さな凸状の
ギザギザがあり,リンスの容器にはあ
りません。目をとじたままで触わって
もリンスの容器と区別ができます。
③大きなボタンと音で知らせてくれる電話
見やすく押しやすい「でかボタン」。 ボタンには小さな凸があり触ってボタ ンの位置がわかり,音声で終りを知ら せてくれます。
(画像提供:共用品推進機構)
④段差のない浴室ドア
浴室への入口ドアの床に段差がない ため,つまずくことがなく,高齢者だ けでなく子どもやだれにでも安全で使 いやすいドアです。
⑤押しボタンの位置が低い清涼飲料水の 自動販売機
荷物置きの用の小さなテーブルがあ り,押しボタンの位置が低いので,子 どもや車いすの人にも使いやすい機器 です。
(画像提供:共用品推進機構)
⑥多目的トイレ
手すり,便器の背もたれ,介護用ベ ッド,小さい子ども用の洋式トイレ, オストメイト(人工肛門)対応水洗装 置など,だれもが使えるみんなにやさ しいトイレです。
(写真提供:筑波技術大学)
⑦遠隔地手話通訳システム
聴覚障害学生が受けている授業内容 をインターネット回線を利用して離れ た場所で手話通訳し,その画像を学生 に送り情報支援をします。
第4章 参考資料 2 使いやすさに配慮した「もの」づくりの具体例
⑧歩行支援ロボットスーツ
筋肉の動きを感知し ,機械の力で人 の動きを補助します。高齢者や障害の ある人などの身体の動きを助けます。 重い荷物の運搬補助や災害レスキュー 活動,スポーツなどの分野への展開も 可能です。
(写真提供:筑波大学/CYBERDYNE株式会社)
⑨癒しアザラシ型ロボット「パロ」
ロボットで人の心を いやします。高 齢者や子どもによる使用実験を行い, 心理的効果や生理的効果や社会的効果 があることが確認できました。「パロ」 は「世界一の癒しロボット」としてギ ネス世界記録に認定されています。
(写真提供:産業技術総合研究所)
⑩拡大読書器
視力の弱い人や高齢 者が読み書きな どをするときに,文字や図写真などを 大きく拡大して見やすくする道具です。
(写真提供:筑波技術大学)
⑪触覚ディスプレイシステム
図や文字を小さな凸で表しています。 視覚障害のある人のための触ってわか るシステムです。学習の支援やコミュ ニケーションの道具として使えます。
3
情報のユニバーサルデザイ
ン
情報のユニバーサルデザインとは,年齢,ことばの違い,障害の有無,
そのほかいかなる要因にもかかわらず,だれでも情報通信機器を操作し,
情報にアクセスでき,サービスの利用など情報の利点を活用できることを
表します。情報アクセシビリティ,情報バリアフリー,ユニバーサル・ア
クセスということばでも表現されます。
(1)情報アクセシビリティのあゆみ
ア メ リ カ の ADA 法 を 背 景 に 1998 年 に 米 国 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 法
(Rehabi l i t at i on Ac t )第508条がつくられました。これは,連邦政府に対
するI Tアクセシビリティのガイドラインを定義したものです。ここでは,
連邦政府が調達・使用,あるいは一般市民に対し提供する情報,サービス
は,障害のある政府職員・一般市民が,障害のない人と同等にアクセスで
きなければならないと規定しています。
日本では,情報バリアフリーの実現・情報アクセシビリティの向上のた
めに,2002年に障害者基本計画の策定が行われ,2004年に障害者基本法が
改正されました。これを受け,2004年に情報通信全般について共通的なア
クセシビリティJ I S規格「J I S ( J apan I ndus t r i al St andar d) X 8341 高齢
者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器,ソフトウェア及びサ
ービス」が作られました。この中では,日本語特有の問題点も扱われてい
ます。
(2)インターネット技術の国際標準化
インターネットの普及によって,世界中の情報が手軽に入手できるよう
になりました。どこにいてもどのような機器を用いても,だれもが情報を
活用できることを目指して,Wor l d Wi de Web Cons or t i um( W3C) という国際
的な機関がインターネット技術に関する標準化を推進しています。W3C内に
第4章 参考資料 3 情報のユニバーサルデザイン
クセシビリティに関する基準,WCAG(Web Cont ent s Ac c es s i bi l i t y Gui del i ne)
を提案しています。
(3)配慮ポイント
解決方法はひとつだけではありません。また,一人一人最適な方法は異
なります。しかし,ちょっとした配慮でだれもがアクセスしやすい情報に
なる場合もあります。以下,そのポイントについて紹介します。
• 耳の不自由な人:音声情報を視覚的に表現することが必要です。字幕を
つける,エラー・メッセージの点滅,カタカナ英語を控えるなどが考え
られます。
• 目の不自由な人:視覚情報を音声に置き換えたり,視認性・可読性を高
める工夫が必要です。文字情報を音声で読み上げる,視覚情報を拡大す
る,文字の大きさや書体選び,見やすい色づかい,地と文字の対比を明
確にする,色だけに頼らないなどが考えられます。
• 手指の運動が不自由な人:機器の場合は,入力装置や記憶メディアの取
り扱いやすさなど,操作のしやすさが必要です。操作しやすいスイッチ,
コントロール装置,挿入・取り出しの容易なディスケットおよびメディ
ア装置,声や視線による入力など入力装置の工夫などが考 えられま す。
• 認知・学習が困難な人:情報をわかりやすくすることが必要です。全体
的なデザインの統一やわかりやすい文章表現,専門用語や省略語などを
使用しない,音声と文字による同時提示,言葉ではなく絵で表すなどが
考えられます。
• 国籍・言語の異なる人:母国語で伝える,文化的背景を考慮するなどが
考えられます。
これらの配慮ポイントは,子どもや高齢者にとっても必要なことである
と同時に,だれにとってもアクセスしやすい情報のための配慮ポイントに
4
生活し
やすいまちづく
り
ユニバーサルデザインのまちづくりには,基本となる二つの法律があり
ます。それは,「ハートビル法」と「交通バリアフリー法」です。そして,
平成17年,この二つの法律の統合をめざし,「ユニバーサルデザイン政策大
綱」が策定されました。
「ハートビル法」は平成6年に制定され,平成14年に改正されました。
目的は,高齢者や身体障害者などが快適で安全に建物を利用できるように
することです。病院,映画館,公会堂,展示場,百貨店,ホテル,高齢者
施設,学校,美術館,商店,飲食店,役所,駐車場,公衆便所といったい
ろいろな人が利用する建築物で,身体の負担を減らすバリアフリー化を推
進することが定められています。
一方,「交通バリアフリー法」は,平成12年に制定されました。目的は,
高齢者や身体障害者などが快適で安全に公共交通機関を利用できるように
することです。駅やバスターミナル,空港,鉄道車両,バス車両,航空機,
旅客船などについて,身体の負担を減らすバリアフリー化を推進すること
が定められています。さらに,駅などを中心とした一定の地区において,
市町村が作成する基本構想に基づき,道路や駅前広場,信号機などのバリ
アフリーを一体的に進めることも盛り込まれています。
「ユニバーサルデザイン政策大綱」は平成17年に策定されました。目的
は,交通バリアフリー法とハートビル法をユニバーサルデザインの視点で
見直し,公共交通機関や建物を連続した生活環境としてハードとソフトの
両面から継続して整備,改善していくことです。バリアフリーでは一部の
人人が対象でしたが,ユニバーサルデザインでは年齢や障害の有無,国籍
などを問わずできるかぎりすべての人人が対象になっています。ハード面
では一体的・総合的なバリアフリーの推進やIT技術の活用などが,ソフ
ト面ではいろいろな人人が計画に参加できる仕組みづくり,評価のシステ
ム,心のバリアフリーの促進などが盛り込まれています。
第4章 参考資料 4 生活しやすいまちづくり
でも整備すべき最低基準だということです。ユニバーサルデザインは,こ
れらの指針をベースに,さらに「高齢者や障害のある人のみならず利用者
みんなにとってより快適」であることを目指す考え方です。以下,そうし
たユニバーサルデザインに基づく配慮を紹介します。
(1)施設建設のプロセス
①適切な建物づくりのための基本構想
多くの人が利用する建物も,その用途や機能,規模や性能,利用の仕方
や利用の頻度などはさまざまです。それぞれの建物がどのような建物にな
るべきか,利用者にとって本当に適した建物になるためにはどのようなプ
ロセスをとるべきか,そのコンセプトを明確にした構想を立てる必要があ
ります。その構想をユニバーサルデザインの観点から策定することこそが,
利用者にとって最も適した,利用しやすい建物をつくるための第一歩です。
どのような人たちに,どのような方法で,どのようなタイミングで参加し
てもらうのかをこの基本構想で示し,建物づくりのプロセスにおいて実行
していくことが大切です。
②利用者ニーズ(要求)の的確な把握
これからつくる建物に求められている機能・規模・性能はなんであるの
か。これを的確に把握することは,簡単なことではありません。しかし,
アンケートや聞き取り調査によって,その把握に努めることが大切です。
アンケートや聞き取り調査は,できるだけさまざまな人たちに行い,簡潔
にわかりやすい文章・表現によって,行うことが求められます。また,視
覚や聴覚に障害のある人たちにアンケートや聞き取り調査をする場合は,
その方法などに工夫が必要です。
③開かれた設計者の選定方法
把握されたニーズに対して,適切な建物をつくるためには設計者の能力
定にあたって,特に公共施設の場合は「コンペ方式」や「プロポーザル方
式」などの公正性・透明性・客観性を併せもった方法により,もっともふ
さわしい設計者を選ぶことが大切です。
④利用者参加の設計方法
施主や設計者とともに,利用者が具体的に設計に参加する方法として「ワ
ークショップ」があります。ワークショップは企画段階でのニーズ把握や
実施設計段階・施工段階で建築細部の決定など,目的によって実施のタイ
ミングや参加者を検討することが必要です。できるだけ幅広い人たちの参
加を促し,充実した意見交換ができるよう配慮することが大切です。ワー
クショップを運営するためにはコーディネーターが大きな役割を担うので,
的確な人選が重要です。
一方,建物の細部を決定するときに利用者が参加する方法として「モッ
クアップ」という方法もあります。実物大の模型を作成し,実際に模擬的
に利用してみることでより細かなニーズが表れ,よりよい建物ができるの
です。建物の入り口やカウンター,トイレやスロープ・階段など,建物を
つくる前に実際利用してみることが,もっともわかりやすく,的確なニー
ズ把握ができる方法といえるかもしれません。
⑤利用者による検証と評価,そして改善への反映
以上に示したようなプロセスを経て建物が完成しても,利用しはじめる
と新たな課題や改善点が見えてくる場合があります。そのため,建物完成
後もワークショップなどで計画的な現場体験をし,問題点を把握し,施主
や設計者とその問題を共有することが重要です。そして,その改善に向け
て具体的な提案を行い,反映していくことが必要です。このような検証作
業は,実際に検証を行った場所の改善のみならず,今後つくられる別の建
第4章 参考資料 4 生活しやすいまちづくり
(2)施設
①移動空間
移動空間は,人がなんらかの意志により,ある場所から目的地まで行動
する場所です。移動手段は,徒歩や車いす,自転車やオートバイ,乗用車
など個人での移動方法から,バスやタクシー,電車などの公共交通機関ま
でさまざまです。上下に移動するための手段としては,階段,エレベータ
ー,エスカレーターなどがあります。また,杖を使っていたり,ベビーカ
ーや買い物カートを押していたり,スーツケースを持っていたりと,移動
の状況もさまざまです。こういった手段や状況を考慮し,快適に安全に目
的地まで移動できるよう,以下の考え方でデザインすることが大切です。
(ア)負担の少ない移動経路
無用な段差はつくらないだけでなく,車いす利用者やベビーカーやカー
トを押している人,足腰が弱い人にとっては,できるだけ垂直移動は避け
たいものです。可能な限り水平移動で目的の行為が達成できるよう,計画
することが大切です。また,視覚障害のある人にとっては,カーブや斜め
の進行は方向感覚を失いやすく,利用しやすいとはいえません。できるだ
け直角での移動ができるよう計画することが望まれます。
(イ)みんなが同じ動線で移動
先に書いたように,移動手段や状況によっては垂直移動が苦手な人がい
ます。それでも上下への移動をしなければならないとき,遠回りすること
なく,みんなと同じ経路で移動できることが望まれます。エレベーターや
スロープは,“ 同じ動線” になるような位置に計画する必要があります。
(ウ)連続性のある計画
配慮されたデザインも,それが建物の一部だけでは,結局,目的の場所
に行くまでに困難が生じます。建物に入るまで,そして入ってから部屋ま
でも,部屋に入ってからも移動は連続します。配慮も連続性がなければい
けません。
(エ)ゆとりのある移動空間
ていたり,同じ移動でも疲れやすい人がいます。そのため,適度に休憩で
きるスペースを設けるなど,ゆとりのある移動空間が望まれます。また,
人それぞれ移動のスピードは違います。自動開閉扉などは,ゆとりのある
開閉速度にするなど,配慮が必要です。
[ 配慮ポイント]
• 駐車場・駐輪場:十分なスペースを確保すること,とくに車いす利用者
用駐車スペースは,安全で利用しやすい位置で,乗降時間を考慮して屋
根を設置する必要があります。駐輪場は,わかりやすく,明るい場所に
確保します。また,サインは,わかりやすくし,路面と標示板の2通り
が必要です。
• 敷地内通路:歩行者と自転車・自動車の動線を分離し,かつテクスチャ
ー(素材)を変えることで,わかりやすくだれもが安全に利用できる空
間が望まれます。十分な幅員と誘導用ブロックが必要です。勾配は,上
り下りに不安を感じない角度と長さが必要です。適度に休憩スペースを
確保することも大切です。
• 玄関:わかりやすい位置,利用しやすいスペース,操作しやすい扉など
が必要です。すべての人が同じ玄関・出入り口を利用するような計画が
求められます。
• 水平移動(廊下,出入り口):車いすでの通行,回転ができるよう,十分
な幅員が必要です。歩きやすく,車いすを利用しやすい床材を利用し,
手すり等の歩行補助具の設置も求められます。ごみ箱など,突出物を出
さないようにする配慮も必要です。
• 上下移動(階段,エレベーター,エスカレーター):エレベーターを建物
外周部に敷設すると車いす利用者の動線が長くなってしまうため,ほぼ
同じ経路で上下移動ができるように計画する必要があります。エレベー
ターは,十分な大きさ,だれもがわかりやすく操作しやすい操作部,的
確な情報(特に非常時)を提供できる情報機器の設置などが必要です。
第4章 参考資料 4 生活しやすいまちづくり
鼻(だんばな)などを備えることが大切です。また,エスカレーターは,
進入の可否などを的確に伝える情報機器の設置が必要です。
• スロープ:長さ,勾配,前後の安全などに配慮して計画することが重要
です。連続性のある計画,終始点には障害物などが置かれないよう工夫
する必要があります。
• 移動の補助(手すり,ベンチ):移動や立ち座りの動作の補助,転倒・転
落防止など,使い方を十分考慮したものを設置する必要があります。移
動用手すりは,連続的に敷設し,使う人のからだの大きさを考慮して2
段とすることが有効です。
②活動空間
活動空間は,ある目的を果たすために一定時間活動したり,活動によっ
て疲れた心や体を休めたりする場所です。さまざまな活動を快適で安全に
行うためには,空間や設備でユニバーサルデザインが求められます。高齢
や障害・疾病(病気)・妊娠などのために活動を制限されている人や大きな
荷物を持っていたり,乳幼児を連れていたりする人,初めてその場所を利
用する人など,人や状況によって異なる活動の特性を十分に配慮しなけれ
ばなりません。そして,すべての人が無理なく活動を遂行できるよう,以
下の考え方で建物・空間をデザインすることが望まれます。
(ア)心への配慮
利用の目的や活動の種類が異なっていても,それぞれの活動が安心して
行えるように,空間のデザインには配慮が必要です。落ち着いたり,集中
したり,くつろぐことができたりなど,活動にあった心理状態(こころ)
を考慮した建物づくり・空間づくりが望まれます。また,プライバシーを
守ることも安心には必要不可欠です。
(イ)それぞれの動作への配慮
活動や動作は,人によって,また,状況によって実にさまざまです。そ
のすべての活動が,“ 正確に・安定して・負担なく” 行えることが望まれま
は当然ですが,人がする活動ですからミスをすることも考慮し,そのミス を寛容に受け止め,対応できるような計画にする必要があります。
[ 配慮ポイント]
• トイレ・洗面所・多機能トイレ:わかりやすい位置にゆとりのある計画
が必要です。男女トイレの左右を統一するなど,使いやすさを重視しま す。建物によって男女トイレの左右が異なることは,特に目の不自由な 人などにとってわかりにくく,利用しにくいからです。水洗の操作など もわかりやすく操作しやすい機器でなければなりません。また,荷物置 きを設置し,荷物が多い人や障害のある人の利用を補助することも大切 です。
さらに,男女トイレともに,乳幼児のためのベビーシートやベビーベッ ドなどを設置するほか,子ども用男性便器や子ども用洗面台などを設置 することが望まれます。多機能トイレは,他のトイレと隣接した場所に 配置することが基本です。大きさ・表示・扉・手すりなどに配慮すると ともに,乳幼児対応・オストメイト対応などにも配慮する必要がありま す。
• 更衣室,シャワー室:まず清潔で快適に使用できるゆとりとプライバシ
ーを確保しなければなりません。脱衣室,更衣室,シャワー室などを連 続して計画することも大切です。浴室には,浴槽への移乗を補助する座 面などがあると便利です。
• カウンター,水飲み場,公衆電話:2種類の高さを用意し,すべての人
が使えるよう計画する必要があります。筆談等ができるよう,荷物置き を設けることも欠かせません。
• 授乳室:使いやすくプライバシーを確保した空間が望まれます。男性の
利用も考慮し,奥の部屋を設けるなどの配慮も必要です。
• 操作ボタン,スイッチなど:スイッチ,コンセント,ボタン,非常操作
部,サインなど,操作しやすさを考慮した設備を導入する必要がありま す。
• 家具:すべての人が使えるよう安全で操作性の高い家具を設置する必要
第4章 参考資料 4 生活しやすいまちづくり
③買い物のための空間(商店・スーパーマーケット・百貨店など)
商品棚の間隔は,ゆとりのある計画が重要です。試着室は,段差をなく
すとともに,耳の不自由な人でもコミュニケーションを取れるよう工夫す
る必要があります。商品棚は,見やすく取りやすい棚を配慮します。商品
を取ってもらうためには,手助けランプなどの設置が有効です。レジは,
ゆとりのあるレーンとするか,もしくは車いすレーンを設ける方法があり
ます。表示の値段などが見やすいように機器を設置することも重要です。
④観賞・観覧のための空間(劇場・映画館・ホールなど)
聴覚障害のある人が鑑賞・観覧できる設備が求められます。段鼻は,暗
転しても視認できるように配慮する必要があります。車いす用スペースは,
選択できるように数カ所計画することが望まれます。家族観覧室も大切な
配慮です。一方,ステージ・楽屋へのアクセシビリティ確保も欠かせませ
ん。
⑤宿泊のための空間
睡眠・休息・入浴・トイレなど,生活のためのあらゆる動作が行われる
空間であることを考慮して計画します。十分な大きさの出入り口と通路を
確保し,ベッドまわりのゆとりも必要です。浴室や洗面等にも配慮します。
情報から遮断されないように,情報設備を整備することも大切です。
(3)公共交通機関
①交通車両
公共交通の車両では,高齢者や障害のある人,小さい子どもや車いす利
用者,大きなスーツケースを押している人など,さまざまな人が安全に快
適に乗降できるように,ゆとりのある乗降ドアや車両とホーム(または地
面)に段差のない(小さい)車両の導入が望まれます。また,視覚障害の
ある人などにとっては,車両の形が変わり,乗り方や降り方,通路の形状
とがむずかしい場合があります。全車両の統一が望ましいのですが,路線
別に車両の形式やデザインを固定するなどの配慮でも利用しやすくなりま
す。
車内空間は,明るく清潔で見通しが良いだけでなく,車いす利用者が安
心して乗車できる車いすスペースの確保,非常時に乗務員に連絡できる対
話式の非常通報装置の設置など,安全・安心して乗車できる車両の整備が
必要です。
また,初めて利用する人,日本語の不得意な外国人,漢字の苦手な子ど
もたちにもわかりやすいよう,駅名表示方法や車内案内表示などに配慮す
る必要があります。視覚障害のある人が乗車した際に乗車した位置が確認
できる点字の案内,的確でわかりやすい音声案内などにも考慮が必要です。
[ 配慮ポイント]
• 車両とホーム:段差をつくらないことが大切です。どうしても段差がで
きてしまった場合には,段差隙間解消設備を利用する方法 がありま す。
• ドアや通路:ドアや通路には,ゆとりをもたせ,車いす利用者が手すり
を持てるような位置に車いすスペースを確保するなどの配慮が必要です。
• 案内表示:多機能車内案内表示器や点字案内標など,さまざまな表示方
法による情報提供を行います。たとえば,鉄道車両は,駅番号を採用す
れば,漢字の読めない子どもや外国人などにもわかります。
• 路線バス:バスの型式を固定・統一すれば,乗り方・降り方・席の配置・
ボタンの押し方・料金の払い方などが理解しやすくなります。バスの下
車を知らせる押しボタンは,その設置位置を十分に考慮する必要があり
ます。行き先などの案内表示や案内放送をよりわかりやすくすることが
大切です。また,市外からの来訪者がアクセスしやすく,電話やファク
シミリでも問い合わせられる,交通車両の案内センターを設置すると便
利です。
• タクシー:料金が確認しやすい,ナビゲーションが見えるなど,利用者
第4章 参考資料 4 生活しやすいまちづくり
インタクシーなどの導入についても事業者との積極的な検討が必要です。
• レンタカー,レンタサイクル:さまざまなニーズに対応できるように選
択肢を多く用意することが大切です。
②交通施設
まず,安全で負担のない歩行空間や上下への移動を可能にする必要があ
ります。段差のないゆとりのある歩行空間が,まちから車両まで,または
次の交通機関まで連続的に整備される必要があります。さまざまな移動方
法や状況に対応できるよう,上下移動には階段・エレベーター・エスカレ
ーターなどの複数種類の設備が必要です。
視覚障害者誘導用ブロックは,連続的に設置する必要があることはもち
ろん,急いでいる大勢の人人の中を誘導するので,その設置位置は慎重に
考慮する必要があります。ホールやコンコースの中央に設置すると大勢の
移動と重なり,逆に危険になる場合もあります。
次に,安全快適にすごせる待機空間(ホームやバス停)を整備する必要
があります。車両との接点であるホームやバス停などでは,視覚や聴覚に
障害のある人,高齢者や子どもなども安全に車両を待つことができるよう,
見通しを良くしたり,柵を設けるなどの工夫が大切です。また,暗い夜や
雨の日,風の強い日,日差しの強い日などのさまざまな天候でも,快適に
車両を待つことができるよう配慮が必要です。これにより,荷物を持った
人でもゆっくり傘をさせるなど,みんなが利用しやすくなります。
さらに,わかりやすい案内と券売システムが求められます。公共交通機
関は,乗車券を買い,改札を抜けるなどの特定の行動を必要とします。こ
れらの行動がだれにでもわかりやすく,利用しやすいように配慮する必要
があります。券売機などは,目の不自由な人にもわかりやすく,車いす利
用者や子どもでも利用できる高さのものを設置するなど,選択肢を設ける
[ 配慮ポイント]
• 鉄道駅舎・ホーム空間:多くの移動を伴わずに情報を得られるよう,動
線に沿ったわかりやすい位置に案内表示を設置します。
• 券売機・自動改札:わかりやすい位置に利用しやすい設備を設置すると
ともに,移動方法や状況によって選択できるよう,いくつもの選択肢を
用意します。
• 可動式ホーム柵:安全に車両を待つことができるために有効です。
• 休憩所:長い移動が困難だったり,大きな荷物を持っているときに,休
憩できる場所を適度に配置します。
• 視覚障害者誘導用ブロック:大量輸送機関においては,人の移動が時間
的にも空間的にも集中します。このような場合でも,視覚障害のある人
が安全に移動できるよう,視覚障害者誘導用ブロックの敷設位置には,
細心の注意を払う必要があります。
• 音声案内・誘導音(チャイムなど):出入り口や券売機,改札口などの位
置を知らせる音声案内や誘導音(チャイムなど)は,わかりやすい案内
にします。たとえば,改札口を示す誘導音はどこの駅舎でも同じである
ような,統一感のある整備も必要です。
• バスターミナル・バス停:ノンステップバスなどの車両との段差をなく
すために,マウントアップ型の構造とするなどの配慮が必要です。バス
が正着できるよう,状況に応じてバスベイ型,ストレート型などの形式
とします。また,風や雨,強い日差しを避けることができるように,屋
根や防風板を設置します。見通しなどへの配慮も必要です。
夜間,明るくなるように街灯を設置します。車両から人が確認しやす
くなるとともに,防犯上も安心して待機することができます。
さらに,どの路線がどのバス停から出るのか,わかりやすく計画する
必要があります。また,これらを適切に案内するための見やすく理解し
第4章 参考資料 4 生活しやすいまちづくり
(4)道路
①車道空間
車道空間とは,自動車やオートバイ,自転車などが走行したり,停車し
たりする場所です。自動車は,軽自動車や普通自動車などの個人使用や大
型トラックやダンプカーなどの業務用,バスやタクシーなどの公共機関ま
でさまざまです。また,これらを運転する人も自転車は子どもから高齢者
まで,自動車やオートバイでも初心者や高齢者,そして,プロの運転手ま
でさまざまです。このように多種多様な車両や運転者が利用することを考
慮し,以下の考え方で快適に安全に走行できるようデザインすることが大
切です。
(ア)さまざまな状況でも運転しやすい車道空間
運転をするときの周囲の状況は,昼や夜,晴れや雨,嵐や雪,夏や冬な
どその時々によってさまざまです。夜間における交差点や横断歩道での視
認性の確保や降雨時の水しぶき,走行騒音,ライトの反射などの低減,ま
た豪雨による冠水や降雪によるスリップの防止,さらに,対向車ライトの
眩しさや夏季の暑さなどを低減するために,工夫して整備することが求め
られます。
(イ)歩行者の安全を確保した車道空間
つくば市には,幅の広い幹線道路がある一方,比較的狭い生活道路もあ
ります。幅の狭い道路においても,歩行者が安全に安心して歩行できるよ
う,工夫して整備することが求められます。
[ 配慮ポイント]
• 車道の幅員・車線数:交通量および利用状況に応じた適正な幅員とする
ことが大切です。
• 舗装材料:降雨時の水しぶき,走行騒音,ライトの反射等を低減する必
要のある個所では,排水性舗装とすることが有効です。
• 縁石:車両乗り入れ部や歩道巻き込み部など,やむを得ない場合を除き
• 排水施設:側溝・排水枡・横断側溝などの排水施設は,動線と交差しな
い場所に設け,ふたは滑りにくく,靴のかかとなどが落ち込まないもの
とすることが求められます。
• 中央分離帯:植込みがされている場合,定期的な管理を行うことにより,
対向車ライトによるまぶしさの低減が図られます。街路樹は,定期的な
管理を行うことにより,良好な景観をつくり,夏季の日差しを和らげる
ことができます。
• 自転車・歩行者通行帯:歩道のない道路では,路肩および余裕幅などを
利用し,自転車・歩行者通行帯を設けることが望まれます。舗装材料や
色調を変え,利用者にわかりやすくすることが大切です。
②歩道空間
歩道空間は,子どもから高齢者までさまざまな人人が移動する場所です。
安全性はもちろんのこと,わかりやすさや快適性など,以下の考え方でデ
ザインすることが大切です。
(ア)安全に安心して歩行できる
まず,どのような人が,どれくらい,どのような目的で,どんな手段(徒
歩,自転車,車いす等)で利用しているのかを把握しなければなりません。
それを参考に段差や幅員狭小個所の改善等に努め,歩行者が安全に安心し
て歩行できる歩道空間を整備することが大切です。
(イ)人・自然環境にやさしい歩行空間
疲れたときに休息ができ,語らいの場として利用できるベンチや緑,水
飲み場などを設置したり,ヒートアイランド対策や地下水保全対策を実施
するなど,人や自然環境への配慮が必要です。
(ウ)安全に安心して通行できる横断施設空間
視覚に障害のある人や車いす利用者,子どもや高齢者,大きなスーツケ
ースやベビーカーを押している人なども安全に安心して通行できるよう,
利用者の歩行速度や身体能力に配慮した路上・立体横断施設を整備するこ
第4章 参考資料 4 生活しやすいまちづくり
[ 配慮ポイント]
• 歩道の形式・材料:連続的な平坦性を確保し,段差軽減のためフラット
型にすることが求められます。ただし,フラット型であっても横断歩道
部などにおいては,目の不自由な人が歩道と車道の境界部を認知できる
よう,歩行者動線用乗入れブロックを使用する工夫が必要です。また,
市街地部では水溜りが生じないように,透水性舗装または排水性舗装を
用いることが有効です。
• 歩道の勾配・段差:車いす利用者が通行しやすい勾配にする必要があり
ます。やむを得ず段差が生じる場合は,通行に支障のない高さとするこ
とが求められます。
• 縁石:縁石は,車両乗り入れ部や歩道巻き込み部など,やむを得ない場
合を除き連続させることが大切です。
• 歩行者と自転車の分離:歩道の幅員を広く確保できる場合は,利用状況
に応じて歩行者と自転車を分離する形状とすることが望まれます。また,
舗装材料の変更などで通行帯をわかりやすくすることも大切です。
• 音声信号機:交差点では,歩道部分に横断待ちをする平坦なスペースを
設け,視覚に障害のある人も安全に横断できるよう,音声信号機を設置
することが求められます。必要に応じて,道路照明灯などを設置し視認
性を高めることも有効です。
• 野外照明:照明による事故の抑制効果の高いところや交通量の多いとこ
ろ,人の集まるところに優先して設置する必要があります。明るさは,
歩行者などの通行量や周辺の光環境を考慮し,適切な明るさを確保しな
ければなりません。
③緑の空間
公園等のオープンスペースは,利用者が不特定多数であることが特徴で
す。四季をとおして使うことも考える必要があります。一方で利用者のも
つ特性やニーズへは相互に矛盾することもあります。すべて同じ基準でつ
ザインする必要があります。
また,すべての公園等をユニバーサルデザイン化することは不可能であ
り,現実的ではありません。そこで,公園の地形などの条件や障害の程度
や介護の有無により,対応できるかどうかなどの情報を提供することが有
効となります。利用する前に必要な情報が得られれば,自らの意志で経路
や施設を選択できるからです。情報提供は,現地の案内看板やホームペー
ジ等を活用します。
[ 配慮ポイント]
• 公園等のレイアウト:敷地の地形や外部道路からのアクセスの条件,公
園の利用目的を踏まえ,利用者の動線を十分考慮して主要施設やルート
のレイアウトを行わねばなりません。幅広い利用者の年齢や身体能力に
配慮し,多くの選択肢を設けることも必要です。
• 段差のない園路,出入口:園路は,さまざまな利用者に配慮した十分な
幅員と縦勾配を確保しなければなりません。スロープの場合,水平部分
を設ける必要があります。車いすの 脱輪防止,手すり,誘導ブロックな
どの設置も必要です。
• 側溝などの蓋:事故防止のため,側溝には蓋を設ける必要があります。
蓋は,杖や車いすのキャスターなどがはまらない形状にすることが求め
られます。
• 休憩施設:東屋やベンチをさまざまな利用者に合わせて,適切な間隔で
設置することが重要です。ベンチに車いすと並んで座れるような配慮も
必要です。また,施設の主要部分には,悪天候から身を守る配慮も欠か
せません。
• 障害者用駐車場:出入り口に最も近い場所に,規模に応じた数の車いす
利用者専用駐車場を確保しなければなりません。駐車場から出入り口へ
のアプローチの安全性も欠かせません。
• 障害者用トイレ:主要経路からアクセスしやすい場所に車いすの利用者
第4章 参考資料 4 生活しやすいまちづくり
然環境に調和したデザインへの配慮も大切です。
• 植栽:主要ルートや手に触れることのできる範囲内に毒やとげのある植
栽は配してはいけません。やむを得ない場合には,わかりやすいサイン
で危険性を伝えます。
• 地表面の素材:転倒防止のため,悪天候でもすべらない素材を採用する
ことが大切です。広場と園路で素材を変えると目の不自由な人にもわか
りやすくなります。
• 子どもの遊び場:障害児をはじめ,体力に合わせて遊べる選択肢を用意
する必要があります。どこからでも見守れるよう,視認性を確保するこ
とも重要です。
• 水辺空間:だれもが水に親しめることが大切です。直接水に触れること
ができない場合でも景観や音( 水琴窟など) を楽しめる配慮が求められま
す。
• 案内看板,音声案内施設,触地図:だれもが現在地と目的地,ルートを
把握できるようにするために,主要個所にわかりやすい案内看板を設置
する必要があります。さまざまな身体能力の利用者に配慮し,音声や触
覚に対応することが望まれます。
• 情報の提供・公開:公園には,自然の景観を生かした自然勾配や段差な
どが存在します。たとえば,車いすの利用者が現場に行ってしまってか
ら利用できないといった不都合を防ぐために,バリアフリーマップなど
の情報をホームページやパンフレット等で事前に知らせるシステムを用
意することが欠かせません。
• 障害者に配慮した利用プログラムなどの提供:できるかぎりすべての利
用者が等しく自然観察やリクリエーションを楽しめるよう,自然観察会
など,さまざまなレベルのプログラムを用意する必要があります。
• 利用をサポートするボランティアのしくみづくり:自然観察やリクリエ
ーションプログラムでは,適切なスキルを備えた人材が不可欠です。そ
うしたボランティアの人材を適時確保できるしくみづくりやマニュアル
5
「
快適な生活づく
り
のためのアンケート
」
結果
「つくば市ユニバーサルデザイン基本方針」策定にあたり,市民のみな
さんを対象として「快適な生活づくりのためのアンケート」を実施しまし
た。このアンケートは,ユニバーサルデザインに関する現在の市民の方々
の意識を調査することを目的としています。
アンケートでは,以下の項目について質問し,それぞれの設問について
評価していただきました。
(1)アンケートの目的と質問内容
①交通機関・道路について(20問)
問1:最寄りのつくばエクスプレスの駅への交通の便
問2:最寄りのつくばエクスプレスの駅構内の案内情報(標示・アナウンス) 問3:最寄りのつくばエクスプレスの駅構内の移動のしやすさ
問4:最寄りのつくばエクスプレスの駅の切符の買いやすさ 問5:最寄りのつくばエクスプレスの駅のトイレ
問6:つくばエクスプレスからバス・タクシーへの乗り換え 問7:つくばセンター周辺の案内情報(標示・アナウンス) 問8:つくばセンター周辺の駐車場・駐輪場
問9:お近くの路線バスのバス停の場所
問10:つくばバスセンターの案内情報(標示・アナウンス) 問11:路線バス車内の案内情報(表示・アナウンス) 問12:路線バスの乗り降りのしやすさ
問13:タクシーの対応
問14:タクシーの乗りやすさ(拾いやすさ) 問15:道(歩道)の歩きやすさ
問16:車道の走りやすさ
問17:横断歩道・信号機・歩道橋の便利さ 問18:道路標識のわかりやすさ
問19:施設表示(建物の名前など)のわかりやすさ
第4章 参考資料 5 「快適な生活づくりのためのアンケート」結果
②公共施設について(8問)
問21:市役所(各庁舎)までの行きやすさ
問22:市役所で目的に合った庁舎のわかりやすさ 問23:市役所職員の対応
問24:公民館・児童館の使いやすさ 問25:図書館の使いやすさ
問26:カピオ・ノバホールなど市民ホールの使いやすさ 問27:公園の使いやすさ
問28:運動施設(体育館・テニスコートなど)の使いやすさ
③情報提供(6問)
問29:つくば市からのお知らせ(広報紙など)の情報量 問30:つくば市からのお知らせ(広報紙など)のわかりやすさ 問31:つくば市のホームページ
問32:「広報つくば」メールマガジン
問33:つくば市への意見(市長へメール,パブリックコメントなど)の出しやすさ 問34:つくば市が行っている情報公開
④生活環境(7問)
問35:医療機関までの行きやすさ
問36:目的に合った医療機関の場所のわかりやすさ 問37:緊急時や災害時の警報やお知らせ
問38:緊急時や災害時の避難 問39:つくば市の防犯対策 問40:つくば市のゴミの出しやすさ
⑤その他つくば市での暮らしやすさ(しにくさ)(5問)
(2)アンケートの回答結果
① 回答者属性
性別割合
第4章 参考資料 5 「快適な生活づくりのためのアンケート」結果
職業割合
ユニバーサルデザイン認知割合
②回答結果
それぞれの設問に対して,以下のような7段階で評価。悪い評価を1,
良い評価を7として,無効回答や利用したことがないなどの回答を除いて
平均値を計算しました。
回答欄の評価基準
7 6 5 4 3 2 1
良い ┠ ─ ─ ─ ╂ ─ ─ ─ ╂ ─ ─ ─ ╂ ─ ─ ─ ╂ ─ ─ ─ ╂ ─ ─ ─ ┨ 悪い
(ア)交通機関・道路
つくばエクスプレスの駅構内(構内の移動のしやすさ,切符の買いやす
さなど)については,高い評価が得られました。その一方で,つくばエク
第4章 参考資料 5 「快適な生活づくりのためのアンケート」結果
ては,不便であるとの低い評価が得られました。
そのほかの質問では,近くのバス停の場所,つくばバスセンターの案内
表示やタクシーの拾いやすさについては,低い評価,車道の走りやすさや
横断歩道・信号機・歩道橋の便利さについては,高い評価が得られました。
(イ)公共施設
目的にあった市役所の庁舎がわかりにくい,公民館・児童館・図書館・
市民ホールなどの公共施設については,使いやすいという評価が得られま
した。
(ウ)情報提供
つくば市からのお知らせについては,情報量やわかりやすさがともに高
い評価を得ました。しかし,ホームページは,約半数の人が見たことがな
く,広報つくばメールマガジンと市への意見については,「見たことがない」
「出したことがない」の回答が6割を越えました。
(エ)生活環境
緊急時や災害時の警報やお知らせ,安全な避難,防犯対策については評
価が低い一方,ゴミの出しやすさは高い評価が得られました。
そのほかには,市民のみなさんが安全・安心・快適に暮らせているかに
ついては,どちらともいえないという評価が得られました。
また,つくばセンター周辺に住んでいる人と周辺地区に住んでいる人と
を分けてアンケートの集計をしたところ,つくばセンター付近の中心地区
は若年層,それ以外の周辺地区は中高年層が多く分布していることがわか
りました。その結果,個別の質問で地区での違いがやや大きく出たものが
いくつかありました。
中心地区の方が評価が高かったのは,路線バスのバス停の場所と公園の
使いやすさで,逆に中心地区の方が評価が低かったのは,市役所(各庁舎)
までの行きやすさ,目的にあった庁舎のわかりやすさ,防犯対策でした。
特に困っていることや具体的なご要望については,多くの自由記述の回
6
つく
ば市のユニバーサルデザイ
ン取り
組み例
つくば市のユニバーサルデザイン活動は,本方針をもとにこれから本格
的にスタートします。
これまでにもつくば市内では,いろいろな人の不自由さを解消する試み
が行われてきました。ここでは,これまでのつくば市における取り組み事
例を紹介します。
(1)生活
①「安全・安心まちづくり市民の集い」の開催
市民や交通・防犯関係団体などが集まり,防犯自警団の事例発表,犯罪
情勢の講演会などを実施しています。市民に対する防犯意識・交通事故防
止の高揚を図り,安全で安心なまちづくりを推進するものです。
②障害のある子どもの小・中学校での受け入れ
市の小・中学校では,障害のある子
どもたちを受け入れる場合には,要望
に応じて検討し,トイレ・スロープな
どの施設面での整備も進めています。
また,障害のある子どもたちが学ぶた
めの支援として,子ども一人に対して
教育補助教員を一人ずつ配置していま
す。
③さまざまな人が参加するイベントの開催
つくば市では,障害のある人や高齢者も楽しく参加できるようなイベン
トを開催しています。開催にあたっては,関連団体などと協力して実行委
第4章 参考資料 6 つくば市のユニバーサルデザイン取り組み例
• おひさまサンサンフェスティバル
さまざまな人を対象にスポーツや
レクリエーションを行うとともに,
障害のある人や高齢者などが制作し
た作品の展示販売等を行います。
• チャレンジアートフェスティバル
障害のある人が制作した作品の展
示と演劇等の舞台発表をとおして,
生きがいづくりや社会参加の機会を
提供します。
(2)情報
①ホームページ
目の不自由な人のための音声対応(ただし,まだ一部分です),外国人
などに対応した英語版を作成しています。
②広報紙
新聞の折り込みや公共施設での閲覧,
直送,電子媒体など,さまざまな提供
方法ですべての市民が情報を得ること
ができるように配慮しています。また,
点字広報や声の広報,外国語版など,
さまざまな伝達方法で制作しています。
● 市民参加型の広報紙
● 複数の方法で配布
毎月1日・15日の2回発行で,主として新聞の折り込みで市民に配 布しています。新聞を購読していない市民のためには,主な公共施設 (各庁舎,中央図書館,公民館,市内の大学等)に置いてあります。 また,それでも手に入れることがむずかしい場合には,直接郵送もし ています。
● 電子媒体の採用
「広報つくば」は,紙媒体として配布するだけではなく,つくば市 ホームページにPDF版を掲載しているほか,メールマガジンでの配 信も行っています。そのため,いつでもバックナンバーを見ることが できます。
● さまざまな情報伝達手段で翻訳
「広報つくば」は印刷物以外にも,目の不自由な人のために点訳し た「点字広報」やカセットテープに録音した「声の広報」を用意して います。
また「広報つくば」の内容を基本に,さらに日本文化紹介や留学生 交流員による取材情報等を加えた広報紙も発行しています(毎月15日 発行)。英語,中国語,韓国語,タイ語,ポルトガル語,スペイン語の 6カ国で発行され,外国人の方が興味をもって読むことのできる内容 を心がけています。
③災害情報
ホームページにある「つくば市防災WEB」の「防災TVニュース」「災害地
域地図表示システム」「災害地域検索システム」などで,災害情報をすばや
く提供しています。これらはつくば市ならではの先進的なシステムです。
また,携帯電話で災害時の情報を入手できる「災害通知メールシステム」
も行っています。
④会議・講演会などでの情報保障
つくば市主催の会議・講演会などに
ついては,とくに耳の不自由な人への
対応として,手話通訳者などを積極的
第4章 参考資料 6 つくば市のユニバーサルデザイン取り組み例
(3)まち
①駅前ロータリー・道路・歩道の整備
市内4駅の駅前整備については,車
歩道の段差をなくすなど,ユニバーサ
ルデザインの考えに基づいた整備を行
っています。
②公園整備・トイレ
中央公園では,市内の公園でいち早
く多目的トイレを設置しました。今後,
ほかの公園を改修していく場合も,ユ
ニバーサルデザインの考え方に基づき,
こうした整備を進めていきます。
③各庁舎での対応
市民窓口課や各市民窓口センターで
は,車いすを利用している人も使いや
すいローカウンターを導入し,サイン
についても「見てわかりやすい」デザ
インを心がけています。また,国際課
には外国人相談窓口を設置しています。
庁舎内のトイレには,谷田部庁舎,
桜庁舎の男女ともに,ベビーシートを
つく
ば市ユニバーサルデザイン懇話会委員名簿
№ 氏 名 役 職 等
1 李 芝英 つくば市外国人生活相談翻訳通訳員
2 大曽根賢一 (社)茨城県理学療法士会理事
3 後藤 豊
筑波技術大学 産業技術学部教授
4 高岡明日香 特定非営利活動法人ままとーん(子育て支援)
5 柘植 法子 つくば市社会福祉協議会理事
6 蓮見 孝
筑波大学大学院
人間総合科学研究科教授
7 宮田 明実 つくば市福祉団体等連絡協議会
8 吉田 真澄
筑波学院大学
情報コミュニケーション学部情報メディア学科教授
9 酒井 晃 つくば市保健福祉部長
第4章 参考資料
つく
ば市ユニバーサルデザイ
ン基本方針策定経過
平成17年
8月 市の現状と課題調査実施
10月 筑波技術大学と連携協定締結
11月 筑波技術大学へ「ユニバーサルデザイン基本方針」策定業務
研究委託
市民アンケート調査実施
12月 第1回ユニバーサルデザイン懇話会開催 ① 経過報告について
② アンケート調査の結果について ③ 基本方針の骨子について
平成18年
2月 第2回ユニバーサルデザイン懇話会開催 ① アンケート調査の結果について ② 基本方針(案)について
3月 パブリックコメント実施
各部局等に基本方針(案)について意見照会 第3回ユニバーサルデザイン懇話会開催
① 基本方針(案)について
〒305- 8555
茨城県つくば市谷田部4741番地 T el 029- 836- 1111 (代表) F ax 029- 836- 9471
調査・研究 筑波技術大学